願い

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「ごめんなさい、白弥……」  山に入って可視化の術を解くなり、五十鈴はそう言って項垂れた。意気揚々と山を下りていった今朝とは真逆の表情に、白弥は思わず苦笑した。 「吾平の怪我に治癒の術を使ったのだろう?」 「それは……って、どうして吾平さんの名前を知ってるの?」 「里に住む者の名前は全て把握している」  白弥の言葉に驚いた様子の五十鈴だったが、すぐに元の表情に戻って下を向く。 「……山を下りる途中で出会ったの。お父さんの薬になる薬草を採りに来たのだけど不注意で足を捻挫してしまったらしくて、痛くて歩けないから一晩山の中で過ごすって聞いて……夜になればこの山も安全ではないし、ほんの少し、せめて日暮れまでに山を下りられるようにって、つい……」  言葉を切って反応を窺うように見上げてくる五十鈴に、白弥は溜め息を吐いてみせた。 「本来私達は、人に限らず山と里に住む全ての生き物に平等でなければならない」 「……はい」  叱られた子どものようにますますしょげ返る五十鈴に、白弥は口調を柔らかくして続けた。
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