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「……」
「行って、彼が夢を叶える手助けをしたいの」
白弥も真っ直ぐ五十鈴を見つめながら――自分の心が存外に平静であることに驚いていた。
こういう日が来ることを何となく予感していて、自分も覚悟を決めていたからだろうか。
――多分そうなのだろう。少なくとも今、五十鈴の決断を聞いて全く動じないなんてことは有り得ない。
何故なら五十鈴は――
「……吾平の『夢』とは何だ」
まるでいつも通り五十鈴の話に耳を傾けるかのように平淡な口調で問い返す。
「……『薬師になること』」
五十鈴も静かに答える。
「亡くなった吾平さんのお母様が薬師で、元々心臓の弱かった松次郎さん――吾平さんのお父様の薬を毎日煎じていたんですって。
お母様が亡くなられた後、吾平さんはお母様の遺された書き付けを見て薬を煎じていたのだけど、本格的に勉強して薬師になりたいという夢をずっと持っていたの。
長いこと迷っていたらしいのだけど、やっと踏ん切りがついたって……。
それで……わたしには妻として自分と松次郎さんを支えてほしい、と言われたの……」
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