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五十鈴は本当に天真爛漫だ。感情も非常に豊かで、嬉しい時には笑い悲しい時には涙を流す素直さがある。白弥にもまるで昔からの友人、それこそ兄に対するようなごく自然な態度で接してきて、こちらも何となく気を許してしまうような人懐こさがあった。
長いこと一緒にいるうち、白弥の中からも五十鈴に対する違和感は消えていった。どころか、種類を問わない質問に答える度に、それまで当たり前すぎて忘れていた様々なこと――夕焼けや星々が瞬く空の美しさ、季節によって姿形を変えていく動植物の生命の営みが鮮やかさを取り戻していくようだった。
名前しかわからなかった、正直面倒だとさえ思った五十鈴は、いつの間にか白弥の中に溶け込んでいた。いつも二、三歩後をついてくる気配に心地好さまで感じるようになったのはいつからだったろう。
「? どうしたの?」
自分をじっと見つめている白弥に気付いた五十鈴が不思議そうに首を傾げる。
「……いや、何でもない」
短く答えて背を向け歩き出すと、五十鈴も後をついてくるのがわかった。
小さく――ほんの小さく笑っていることに、彼自身は気付いていない。
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