散ったトマトジュースと俺と

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その人気のない路地で、髪を振り乱し、息を荒らげた様子のマユに刺されたのだ。コウタは自分の腹に赤いシミが広がっていく様を見ることしかできなかった。ああこれで、さっきこぼしたトマトジュースのシミは気にしなくて済むな…、薄れていく意識の中で、そんなことを考えていた。 そして、今に至る。幸いにもバラバラにされた時の記憶はない。なぜ今になって意識があるのかはわからないが、自分の内臓がでろんとなるのを直視しなくて済んだ事だけは感謝しよう。しかし、小柄なマユが1人で男1人殺して運んでバラバラにできるとは、いやはや女の怨みというものはすごい。生まれ変わったら怨まれないように生きよう。 動かすことのできない首をうんうんと頷かせるような想像をして、もう一度扉を見る。これからどうされるんだ?埋められる?燃やされる?東京湾に沈められる?だとしたらこれは天罰なのだろうか。その間にも意識があったら嫌すぎるなあ。最後のトマトジュースをもっと味わえばよかった。 名残惜しく思って冷蔵庫の扉の裏のポケットに入れていたはずのトマトジュースの目だけでボトルを探した。見つからない。こうなる前の日に、大量に買い溜めたはずなのに、なぜ?妻のマユはトマトジュースが嫌いなので、妻が飲んだということはありえない。 「ここは、どこ家の冷蔵庫だ?」 コウタの問いに答えるように、視界がパッと明るく なった。冷蔵庫の扉が開いたのだ。 「マユちゃあん、まだ腐ってなさそうだよ」     
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