第23話 青色の恐怖

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第23話 青色の恐怖

「あ~やばいやばい……、このままじゃ納期に間に合わない」  とある会社で一人作業に追われる人物。よく見ると部屋の中には彼以外には誰も居なかった。 「まったく、こちとら新企画の制作で忙しいってのに、どいつもこいつも浮かれてやがるな」  男性は窓の外の明かりを見ながらぼやいている。それでも彼は、パソコンから離れる事はできなかった。クライアントからの要求が多かった上に、上司からも無茶苦茶を言われ、更には納期が厳しいと休日出勤をしてみれば自分一人だけ。理不尽極まりない中も彼は必死に頑張っていた。  カタカタとキーボードを打つ音が響き渡るが、それ以外には時計がカチッカチッと時を刻む音だけが響くという静寂の中、社畜の男性はいきなり手を止めて大きく背伸びをした。 「さーて、ちょっと飯にするか。さすがに腹が減っては作業ができなくなるからな」  そう言って、ここまでの作業を保存してから、男性は席を立って外へと出ていった。  近くのコンビニで食事を済ませた男性は、戻ってきて自分のパソコンを見た時に愕然とした。 「な、な、なんという事だ……」  無残にも画面が真っ青になっているではないか。 「なっ、ブルースクリーンだとッ?!」  男性は慌ててパソコンに駆け寄って画面を見る。そこそこの英語力があるのだから落ち着けば対処できるはずなのだが、納期の迫っているこの状況で、社畜の男性には冷静な判断などできるわけもなかった。それくらいには切羽詰まっていたのだ。 「ふざけるなぁっ! まだ完成まで程遠いのだぞ!」  男性は大声で喚く。 「青なんて、青なんて大っ嫌いな色だあっ!!」  続けて男性がそう叫んだ時だった。 「あら、青色が嫌いだなんて酷い事を言ってくれるわね」 「へっ?」  突如として聞こえた女性の声に、社畜の男性は戸惑う。ついに自分は限界突破してしまったのかと。 「……疲れているのかな、幻聴が聞こえてくるなんてな。納期はやばいがこれは寝た方がいいか」  男性は画面を放置してその場で寝ようとする。これに謎の女性の声の主がぷっつりキレた。 「なんて奴なの。嫌いだとか叫んだ上に、無視して寝ようとするなんて。……こうなったら、その嫌いな青色に染まってしまいなさい!」  謎の声の主がゆっくりと姿を現す。  ……モノトーン四天王の一人、ブルーエだった。 「さあ、モノトーンよ。好き勝手に暴れて、世界を青色に染めてしまいなさい!」  ブルーエがパソコンに向かって青色の光を放つ。その光が当たったパソコンは、みるみると青色の化け物へと姿を変えていった。 「モノ、トーンッ!」  パソコンはみるみる人の1.5倍くらいの背丈となる。よく見ればモニタにあたる頭が天井にぶつかっていた。 「うわぁっ!!」  置かれていたデスクを踏み潰した化け物の出現に、社畜の男性は眠気もぶっ飛んで悲鳴を上げた。 「モノトーンッ!」  化け物は顔のモニターから光を男性に向けて照射する。その光を浴びた男性は青色の塊となってその場に倒れてしまった。 「あはは、嫌いな青色に染められたかんそうはどうかしらね。……まあ、答えられないでしょうけど」  ブルーエはすっきりしたような表情を浮かべて外を見る。キラキラと輝く夜の街を見て、ぎりっと唇を噛みしめた。 「ははっ、この世界もいろんな色にあふれていて気持ちが悪いものね。いい気分が台無しだわ」  ブルーエはつかつかと窓際まで歩いていく。そして、噴射器を取り出すと、一気に窓へ向けて発射する。  ガシャーンという音を立てて、窓ガラスが割れて地面へと落ちていく。近くの通行人に当たって悲鳴が上がっているようだが、ブルーエはそんな事にはお構いなした。 「さあ行くよ、モノトーン。この浮かれた連中を、ぜーんぶ青く染め上げてやろうじゃないか」 「モノ、トーンッ!」  ガシャンガシャンという音を立てて、化け物が部屋から走って飛び降りてきた。さっきのガラスの騒ぎで化け物の着地点には人はすっかり居なくなっていた。なので、化け物に踏み潰された人は居ないようである。危うくモザイク事例になるところだった。 「さぁ、モノトーン。遠慮なく青く染め上げておしまい!」 「モノトーン!」  意気揚々と青く染め始めるブルーエたち。そこへ、 「と、止まれっ!」  通報を受けて警察官が駆け付けた。よく見ればすでに拳銃を構えている。それが何か分かっているのか、化け物は動じる事なく右腕を伸ばして拳銃を指差し、右腕に備わっているキーボードのCtrlとXを同時に押した。すると、警察官の持つ拳銃がふっと消えてしまったのだ。さっきの化け物の行動は、ショートカットの『切り取り』だったのだ。 「な、何が起きた!」  慌てふためく警察官に化け物は青い光を浴びせる。すると、警察官も先程の男性と同じように青く染まってその場に倒れてしまった。 「あーはっはっはっはっ! この世界の人間どもも弱いものよね。これならまだパステル王国の連中の方が手強かったわよ」  最近のうっ憤が払えているせいか、ブルーエの高笑いが止まらない。化け物による人間たちの蹂躙はまだ続いていて、ブルーエはとても満足しているようだ。 「あーはっはっはっはっ! 実に最高ねえ!」 「そこまでだっ!」  ブルーエの最高潮を損ねるように、聞いた事のある声が響き渡る。 「あ?!」  ブルーエは笑うのをやめて、不機嫌極まりなく振り向いた。そこには何度も邪魔をしてきた二人の姿があった。 「ああ、やっと来たのかい、パステルピンク、パステルシアン」  美しい顔が醜く歪む。 「ははっ、今宵のこの場をあんたたちの墓場にしてやろうじゃないか!」  月夜に照らされたブルーエが不気味に笑うのだった。
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