春浅い日

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春浅い日

 田島から三度目の手紙を受け取ったのは、その年にしては珍しく大阪に大雪が降り、世間は雪かきやら交通整備やらに騒然としていた春浅い日のことであった。  りさ子は43歳になったばかり、大阪市内の私立中学に通う息子、サラリーマンの夫との三人暮らしであった。  りさ子は以前にも田島からの手紙を二度受け取っている。田島とはクラスは違ったが同じ高校に通った同級生である。二通の手紙は四国の実家に送られ、実家からの転送だ。同窓会関係かなにかしらないが、住所変更の連絡はしっかりと頼むと父からのメモ書きが添えてあった。  田島佑介・・・りさ子が高校1年生の時、半年も付き合ったであろうか。奥手なりさ子は田島と学校の帰りを伴にするだけで、手すら握ったことはない。田島には、中学生のころもっと関係の進んだ彼女がおり、その子とのことをよく聞かされたが、りさ子はマイペースに聞き流した。男性とつきあうのは、聞きたくもない話をきかないといけないし、なかなか大変だなと思っていた。  では、なぜりさ子は田島とつきあったのか。苦しい受験勉強をした末に入った田舎の進学校は、勉強、勉強でまわりの雰囲気についていけなかった。毎週土曜日に朝テストがあったが、いつも満点の同級生がいた。別にクラスで浮いているわけでもなかった。金曜ロードショウの映画の話題にも積極的に参加していた。りさ子は不思議に思っていつ勉強しているのか尋ねてみたら、テレビガイドであらすじだけ把握しておいたら、会話についていくのはそう難しくないとのことだった。りさ子は、呆然とした。  田島とのことに話を戻すと、田島はバスケットボール部、りさ子は文芸部でお互いの帰り道が同じ方向だったので、なんとなく一緒に帰るようになった。スポーツマンの田島は、身体はしっかりしているが笑うと口元にえくぼができる。そんなギャップと高校生活の退屈さがりさ子の恋愛感情を加速させた。     ある日曜日の午後、田島から電話があり、りさ子の家の近所の公園にいるという。来てくれないと今日は一日中公園から帰らないとの内容だった。 退屈な、しかも狡猾な生徒の多い進学校での生活に少々うんざりしていたりさ子は、しぶしぶ公園に行き、田島からの交際の申し込みを受け入れたのだった。
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