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ステラリウム
「美玖、どうしたの、ぼーっとしちゃって」
ひとり、長い回想に浸っていたあたしは、我に返った。七瀬がデパートの店内で見つけた迷子を気遣うような目で、あたしを見つめている。何度も言うけれど、あたしが同じことをしても、こんなに可愛らしくなんかなれない。頼む、代わってくれ。昔の漫画みたいに、お互いの頭をゴツンとやったら入れ替わったりできないんだろうか。
「うん? いやあ、今日も七瀬は可愛いなあ、と思ってさ」
「まだ眠ってるの、美玖」
「寝言じゃないよ、今日も頭から食べちゃいたいくらい可愛いよ、七瀬」
「はいはい」
言いながら、あたしの頭をぽんと叩いた七瀬は、エンピツみたいに細い脚をしなやかに動かして、講義棟の方へ向かってゆく。
隣の芝生は、どうしてあんなにも青く見えるんだ。
今度は口の中だけで呟いて、あたしは七瀬の後を追って、歩き出した。
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