月明かりの部屋

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月明かりの部屋

 一日一回、いっそ死んでしまいたくなる時がやってくる。なんだかどうしようもない気分になって、目の前が真っ暗になったような錯覚に陥るのだ。そうして、いつしか自分がどうして生きているのかということすらも疑問になって、こんな自分は他人にとって害悪でしかないのだ、つまりは死ぬしかないのだ…という救いようのない思考の迷宮に迷い込む。そういう時にどのように対処するかといえば、あたし―白石美玖(しらいしみく)―の場合は、行き詰まったゲームのリセットボタンを押すように、寝てしまう。睡眠は何よりも一番のストレス解消だと思う。もちろん、向精神薬の類も飲んではいるけれど、それだけでずっと元気でいられるというのならば、精神科医などいらないとも感じる。  鬱のことを、心の風邪…なんて軽く言ってのけた最初の人間は誰なのか、とあたしは思うし、いたら横っ面の一つでも張ってやろうと思うのだ。日本人は風邪を引いていても会社に出てくるような民族なのだから、風邪だ…なんて言ってしまえば「何を甘ったるいことを」と言われてしまう。こういう風に言えば次には「これだからゆとり世代は」と言われる。そんなことを言われたって、この世界にあの年代に生まれ落ちたあたしたちに文句を言われても困る。そもそもそうすることを決めたのはあんたたち大人じゃないか…と思うし、そんなゆとり世代に生まれ育ったあたしたちから見ても目に余るようなひどい行いをする「ゆとりじゃない世代」の大人など、掃いて捨てるほどいるではないか。  …なんて、あたしがいくら喚いたところで、誰に届くこともないのだけど。  そうやって、あたしは、また一つ、諦めた。
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