恋が長続きする、おまじない。

「ずっとずっと、この恋が続きますように！」

　恋愛成就のおまじないは世間に数あれど、実った恋が長期に亘って継続する……其処に効果を成すおまじないの類は、少ないのではあるまいか。
　恋は叶えてやったぞ、背中を押してやったぞ、後は自分で何とか努力し、尽力して幸せになれ。駄目ならそれまで、自業自得。或いは相性の不一致。横暴な言い方を用いれば、縁が無かった。理由は如何あれご愁傷様。
　……とでも言いたいのだろうか。

　何故恋愛関係の長期継続に効くおなじない、とやらは此処迄少ないのか。
　兎に角オレの問題点は其処だった。
　別段女々しくおまじないに頼る様な性分ではない。多分。実際恋愛を成就させたのは、確かにタイミングだとか運だとか、そうした説明の付かない要素も影響しているであろうが、少なくとも其の過程でおまじないを用いた覚えはない。
　新品の消しゴムを買ってきて、其処に自分の物ではない其の名前を書いた事もなければ、紙に１００回其の名前を書き連ねた事もない。殆ど自分の力で実らせた物だと自負している。
　そうは言っても。
　人の気持ちは移ろい易く、恋愛関係も２人きりで築いていけるワケではない。卒業後の遠距離という身近な問題に始まって、考えれば考える程、別れに至ってしまう外的要素というのは、如何しても浮上してしまうものだ。

　溺れる者は藁にも縋る。
　１を得れば１０、１０を得れば１００が欲しくなるのが人間である。

　想い人と付き合えれば、此の儘放したくないと願ってしまうのは女々しさでも何でもなく、多かれ少なかれの差異があるだけで誰しもが抱く感情だろうし。其の為に神頼みでも何でもしたい、と思うのも其処迄おかしな事では無い筈だ。
　其の、神頼みの手段が、恋愛成就の其れに比べて極端に少ないのが悩みのタネであったのだけれど。
　何だ？実れば其れで良いと世間は思っているのだろうか？
　好きです。私、若しくはオレも好きです。じゃあ付き合いましょう。其処がゴールだとでも？

　無論、恋愛の成就同様、恋愛関係の維持についても尽力している。尽力していても、不安なものは不安なのだ。
　念には念を。そう、言ってしまえば多少乱暴であるが保険。保険を掛けておきたいのだった。