「ずっとずっと、この恋が続きますように!」

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矢智(やとも)、何其れ。怪我?ものもらい?」  矢智の片眼は医療用眼帯で覆われていた。  昨今洒落た眼帯も時折見掛け、あまつさえ医療用眼帯をもファッションアイテムと化させてしまう者も居るが、矢智はそうした趣味を持っていない。十中八九、する必要があっての事だろう。  自身の恋愛についても不安であるが、友人が怪我をしたかもしれないとなれば心配にもなる。オレは悩みの吐露、或いは白状、若しくは相談を一旦打ち切り矢智に問い掛けた。  しかし矢智の返答はと言えば、素っ気無い物。 「今は僕の事に構わなくて良いです。いえ、後々此の眼帯についても言及する可能性は否めませんが、其れは陸くんの話次第ですから。尤も今中途で切られた言葉から推測する限りでも、9割9分9厘、大いに関係する、或いは役立てるかと思いますが」 「そ、そう?矢智がそう言うなら話すけどさ」  幾らか気を削がれつつも、オレは再度言葉を紡ぐ。  矢智の眼帯について友人としての心配。おっちょこちょいでもなければ目に見えて快活、直接的に悪く言ってしまえば粗暴でも無い矢智が、一見して分かる医療品を用いている事へは珍しい為、下世話な好奇心が多少。  気にせず先のテンションを其の儘に語れという方が難儀である。  其れでもオレにとっては胸中を占めている不安であり、悩みである為、そうした出来事で悩み自体が軽減されたり、何を話そうとしたか失念した、という自体には良くも悪くも成らないのだが。 「恋は実ったら終わりじゃない。此の先どんな要素で別れが訪れるかも分からないでしょ?勿論、其れは忌避すべく、其れこそ全力で尽力する勢いはあるよ。だけど、其れでも如何にもならない事ってあるじゃん?」  例えば家柄の問題とか。例えば執拗な嫌がらせとか。  当人同士の気持ちの熱量とは無関係に、恋愛関係を崩壊させる外的要素は存外其処此処に転がっているものである。 「だからオレは、今度ばかりはおまじないにも頼りたいなぁ、なんて情けなくも思ったんだけど。蓋を開けてみれば神頼み、気休めのおまじないでさえ、恋愛成就に重きを於いて其の先については自分で頑張れって言わんばかりの放任主義。ちょっと困っちゃってさ」  オレが全てを話した後、矢智の口元が弧を描いた気がした。
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