隠れた片眼

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 体育館裏、或いは校舎裏。体育倉庫。下駄箱。夜中のコンビニ等々。  一々列挙していけばキリが無い程、所謂“お約束の場所”といった所は存在している。放課後の屋上も其の1つだろう。  オレはフェンスに凭れ掛かり、ぼんやりと空を眺めていた。夕日の赤が昼の青空を侵食しだしている。赤に取って代わられた青空は、しかし直ぐに夜の黒へと転じるのだろう。夕焼けの時間は存外短い。  何をするでもなく、ただ此処を待ち合わせ場所に指定した矢智(やとも)が来るのをぼんやりと待っていた。常日頃から待ち合わせに於いて他人を待たせる側に回らぬ矢智にしては、先に来ていないのは珍しい。しかし、矢智も人間。此処は学校。遅れる事位はあるだろうし、今日部活は休みと言っても誰かに呼び止められないとも限らない。  そうした要素でたとえ同じ建物の階上へ移動するだけと言っても、余計な時間を喰われる事は存外珍しくもないものだ。  ホームルーム前の教室では結局矢智に茶を濁らされた。  思わせ振りに眼帯へと触れ、思わせ振りな発言を2つ3つ重ねた挙句、 「此処で触れられる様な内容でもなければ、無論、推測に容易い様に眼帯とて容易且つ無用心に外せるものではありません。放課後、屋上で改めて話します」  つまりオレは、探し求め焦がれていた恋愛関係継続のおまじないを眼前に吊るされ、其の儘お預けを言い渡される事と相成った。  よく褒美を前に努力する事を、馬の目先に人参を吊るす様に喩えるが、実際に其れをやられると意欲が湧き上がるどころか、そわそわと落ち着かず、目先鼻先にある好物を一舐めする事さえ許されていないという状況は、苦行とさえ思わせる。  尤も此の状況は努力で何とかなるものではなく、只管時間経過を待つ類のものである為、一概には断言出来ないが。  かと言っておまじないの内容を知る矢智が話す場所を選ぶ内容であると判断した以上、話を知らないオレは従う他無い。加えておまじないは極力人に知られず行った方が効果があるというのは、どんなおまじないでも共通だ。  想い人の名前を書いた消しゴムにせよ、誰にも気付かれず、誰にも触れさせられずが条件であるのだし。  ぼんやりと空を見上げ、ぼんやりとそうした事を考えているオレの耳に、望んだ音が漸く届いた。  其の音自体は決して大きくないが、オレの気の持ちようだろう。其の時オレの耳は、やけに大きく響いていた。
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