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空は半ば以上赤に染まっている。見事な迄の夕焼けは、見事な迄に美しい夕焼けであると同時、赤色のイメージ故にか不思議な不気味さを抱かせ、漠然とした不安さえ胸中に生じさせる。
そうした空の下、屋上の少しだけ重い扉が立てる、キィという微かな軋んだ音と、校舎から現れた矢智。
何方も聞き慣れ、見慣れている筈なのにも関わらず、まるで見ず知らずの何か、得体の知れない何かであるかの様にも感じられた。心臓が高鳴るのは求めていたおまじないが漸く手に入る興奮か、其の得体の知れなさ、或いは不気味さとでも言う様な光景への本能が訴える不安か。
真っ赤な空の下に立つ、眼帯姿の矢智は、やけに絵になっていた。
光の所為か、恐怖の所為か。眼帯の下から赤い雫が垂れている様に見えなくもない。
「ごめんなさい。お待たせしてしまいましたね」
「待たされたって言うなら、朝からずーっとお預けを喰らってたから今更だよ。でも矢智が先に来てないなんて珍しい事もあるんだね?」
「其れもごめんなさい。再三の繰り返しになりますが、あの場で語るに適切かと自問した結果、如何しても是とは断言出来なかったので。尤もあれだけ騒がしければ皆さん、他人の雑談なんて聞き流さずとも耳にすら入らなかったでしょうが。危険は回避するに限ります」
「……まあ、オレは其のおまじないを知らないから何とも言えないけど、そんなに危険なの?そもそもおまじない自体、あまり公言して明言してやるものじゃないけどさ」
多少の危険であれば冒すだけの覚悟は持ち合わせているものの、恋愛関係の存続ともなれば相手の事だって関わってくる。オレ1人が危険な目に遭うだけならまだしも、琴乃も危ないとなれば、幾ら喉から手が出る程欲した物であっても、出てきた手をまた喉に押し返して、無理矢理にでも嚥下するつもりだ。
だから危険があるかどうかは、実行に移す以前に、寧ろ内容を聞くより先に知っておきたかった。
そうしたオレの心境を知ってか知らずか。或いは察してか、察さずか。はたまた知らぬ振り、察さぬ振りか。
どういった意図に因る物かこそ定かでないものの、矢智はにこりと笑ってみせた。
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