銀ドロトラム

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 チンチン♪  トラムはゆく。  銀ドロの綿毛におおわれた街を突き進む。  この綿毛によって幻想をかき立てられるのはわたしだけではないらしい。  様々な人がこの綿毛に別のものを映し出している。  いつしかトラムの乗客はわたしだけになっていた。  わたしは思う存分、スケッチブックに想像上の街を描き出す。  もうトラムの前半分、運転席は白く溶け消えていた。  トラムの前方に見えるのはわたしがスケッチブックに描いた街並みだ。  トラムはわたしの思い描いた街をゆっくりゆっくり走っていた。  その中には、わたしの街を測量している細身の男性が居た。  彼は正確無比な歩幅で、街をはかり、記録してゆく。  わたしの街が確定されてゆく。  その隣を、魚影を追いかける浅黒い肌の青年が横切って行った。  その様はまるで魚とたわむれる少年のようだ。  ひときわ大きな魚影が頭上を通り過ぎると、青年は歓声を上げた。  その様子をうるさそうに見つめている年配の女性が居た。  手には糸で繋がれたマリオネットの犬が居る。  犬は青年を追いかけようとするが、女性はそれを制止し、なだめていた。  その前を、白衣の男性が虫取り網を振り回しながら駆けてゆく。  網の中は白い綿毛でいっぱいのようだった。  果たしてそこにケサランパサランは居るのだろうか。  ……そして、そして、家族と連れ立って楽しそうに歩くわたしも居た。  わたしたちは家族は、あちらこちらで見かけることが出来た。  ケーキの箱を大事そうに持っているわたしが居た。  大きなぬいぐるみをかかえているわたしも居た。  赤いカーネーションの花束の香りを嗅いでいるわたしも居た。  それぞれのわたしは家族とのひと時を幸せそうに過ごしていた。  白い銀ドロの綿毛におおわれた景色が涙ににじむ。  ああ、どうか、どうか、銀ドロの綿毛よ晴れないでおくれ。  わたしの夢を理想を幻想を映し続けておくれ。  もう現実に戻りたくなかった。  わたしの乗るトラムに終着駅はない。  永遠に延々と、銀ドロの降り積もる道路にわだちを刻み続けるのだ。
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