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銀ドロトラム
晩春と初夏の間頃、この街は白く覆われる。
季節外れの雪、というわけではない。
銀ドロの木の綿毛が大量に舞い散り降り積もるからだ。
銀ドロとは、葉裏が銀色に輝いているように見える木のことで、花が散ったあとの綿毛の中には種子があり、風に乗って何百キロも移動することがあるという。
街を歩く人々のほとんどはマスクをし、していない人はしきりにクシャミをしていた。
花粉とは別物だけど、迷惑をこうむる人はたくさん居る。
でも、わたしはこの時期は嫌いじゃない。
白い綿毛が舞い散るさまは、まるで雪国のように幻想的だから。
今日もわたしはスケッチブックを小脇に抱え、綿毛の舞う街に出向いていた。
トラムの停留所にたたずみ、白く塗り潰された街をじっと眺める。
欠如を補うために想像力は活性化するというけれど、わたしが期待しているのはまさにそれだった。
普段見慣れた街並みが、綿毛に埋もれたこの時期には別の顔を覗かせる。
わたしの筆はノリ、存在しない街並みを描き出すのだ。
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