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測量?
あっ、はい。私は測量士でして。今日もこの先の区画へ測量に出向くのです。
でも、何も持たれていませんね。
計測の機材はどうしたのだろうと疑問に思う。
私は測量に道具は使いません。
この二本の足で歩き、歩数で距離と位置関係を導き出しているのです。
とくに銀ドロの綿毛が舞うこの季節は、目測は困難となりますからね。
それに……。
それに?
人の目に隠された街は変容を始めるのです。
測量士と言いましたが、ある意味監視官と言えるのかもしれません。
私は街が勝手に変わってしまわないように、測量することで見張っているのです。
街と言うものは常に人の目を盗んで変わろうとします。
今日のような環境ほど活発に。
だから私のような測量士が必要なのですよ。
だって昨日まで近かったコンビニが、ある日をさかいに遠くなったら嫌ですよね?
たとえるなら時計に似ているかもしれません。
時計盤を見つめている時、時計は時刻を厳守しますが、目を離すと早くなります。
そのように街も変化を求めているのです。
チンチン♪
トラムが次の停留所に着いたようだ。
男性は席から立ち上がると、「では」と会釈をして降りて行った。
わたしは窓の外の景色に目を向ける。
この綿毛の向こう側では、街が人知れずうごめこうとたくらんでいるのだろうか。
それはそれで面白いかもしれない。
わたしは変わり行く街を想像してまた絵を描き始めた。
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