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チンチン♪
トラムが停留所に停まり、肌の浅黒い青年が乗り込んで来る。
ところがその人はもたもたとして、座るよりも先にトラムが動き出した。
するとまるで車内を泳ぐようにこちらへふわふわと歩いて来る。
そして吸い込まれるようにわたしの隣の席に腰をすえた。
ふぅ、なかなかアイツを見つけられないな……。
人捜しでもしていたのだろうか。
と思ったら、わたしのひざを乗り越えて窓ガラスに身を乗り出し張り付いた。
違う、アレではない。アレでもない。
くそっ、今日はいつになく魚影を多く見られるというのにアイツは姿を現わさないのか!
とそこで、困っているわたしの存在にようやく気づく。
ああ、失礼。今日の「海」はいつになく賑やかなので興奮してしまったようだ。
海……ですか?
うむ、俺はこの銀ドロの綿毛に白く染まった景色をそう呼んでいるんだ。
銀ドロの白い綿毛が魚影をくっきりと映し出してくれるからな。
その光景はさながら海のようなんだよ。
魚影と聞いてますます困惑するわたしに、青年は小さく笑った。
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