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信じられないのも無理はないか。
俺とてこの街を訪れるまでは信じがたかった。
魚影の気配自体は昔から感じていたんだ。
けれど周囲の視線もあって、気のせいと思い込んでいた。
ところがたまたまこの時期にこの街へやって来た時、白い綿毛のスクリーンに映し出される魚影をはっきりと認識出来たんだよ。
そんなことありえるのだろうか?
わたしは半信半疑ながらも青年の話に惹きつけられていた。
そして俺はアイツと出会った。
ひときわ大きな魚影を持つアイツに!
その魚影は他とは違い、銀色に瞬いているんだ。
そう、風に揺れる銀ドロの葉のようにね。
きっとアイツこそ魚影の王なんだろう。
そこでまた小さく笑う。
別にアイツをどうこうしようとは思っていない。
いや、そもそもどうこう出来る存在ではないと思う。
だが俺はアイツに魅了されちまったんだ。
そう、理屈ではないんだよ。理屈では。
まるで最後の言葉は自分に言い聞かせているようだった。
そうこうしている内に次の停留所に近づいてゆく。
するとトラムが止まらない内から青年は立ち上がり、また泳ぐようにふわふわと前方へと歩いて行った。
停車したトラムから降りて歩き去る青年の背中を追っていると……、何か大きな魚のひれのような影がひるがえった気がした。
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