つよし君が帰ってこない

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つよし君が帰ってこない

 最近暖かくなってきたし、かごが小さくなったからとパパさんに言われて、今日から家の外で生活することになった。 「ワーン。」  何てことだ。夜は暗いし、みんなの話が聞けなくなる。  何かとっても寂しい。1人ぼっちになった感じがする。窓一枚隔てて、家の中では明かりが灯り、賑やかな声が聞こえてくる。  今日から、かごと違い大きな小屋をもらった。古いバスタオルやクッションも入っている。雨や風が吹いても大丈夫なんだが、せめて、マリちゃんがそばにいればなあ。  夜になって気づいたことが。家の外なので真っ暗なんですが、見えるんです。昼間と同じぐらいよく見えるんです。今まで気づなかった。家の周りは、塀で囲まれているので、勝手に隣の家や道に出られない。でも、家の周りを思いっきり走れる。誰も構ってくれなくても、1人で走り回ってやる。  次の日の朝、ママさんが、「金太、キンター。」と呼びながら、ご飯を僕の家の前に持ってきてくれる。  頭をなでてくれるが、早くご飯を食べたい。白いご飯の上に炊いた肉とネギ、タマネギなどがのっている。きっと昨日の晩ご飯は、すき焼きだったんだ。昨日の晩、この匂いが家の外からでも分かった。  僕にとっては、朝からごちそうだ。ガッツ、ガッツおなかいっぱい食べて、横になると寝てしまった。外の生活も、まあいいっか。  お昼になってもつよし君が帰ってこない。ママさんが、 「金太、つよしが帰ってこないから、探しに行くわよ。一緒に探してね。」  ええっ。大変だ、分かった。「ワン。」  あちらこちら探して歩く。ママさんは歩いているが、僕は、ずっと走っている。帰り道のどこを探してもいない。ママさんは、だんだん心配になってきたのか、早足で歩き出した。だんだんついて行けなくなってくる。  そのとき、携帯が鳴る。学校からの着信でつよし君が学校に戻ってきたとのこと。ママさんも僕も一安心。ほっとして体の力が抜ける。僕もやっと座ることができる。座った途端にまた、出発。学校までママさんが歩いて行く。僕も引っ張られるように走り出す。  つよし君が職員室で座って泣いている。先生に訳を聞くと、帰り道が分からなくなってしまい、学校に戻ってきたそうだ。無事で良かった。  僕もつよし君といっしょに「ワーン」と鳴いてしまった。
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