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 相手に家庭があることを知った時には、手遅れなほど、恋情を燃やしました。  結果は、あなたも分かっていますね。  あなたが私の血を濃く受け継いでいたならと思うと、心配です。  この家に、この街に、戻って暮らすのは、辛いと思います。  それが嫌だと言うのなら無理強いはしません。  せめて、一度、顔を合わせて、話をしませんか。  最後に。身体だけは大切にしてください。 母より』 私は、少しだけ泣いた。許すとか、許さないとか、もうそんなことはいい。 なんと返事を書こう。 普通の幸せな結婚。きっと彼女は普通にかわいい孫も抱きたいのだろう。 ごめんなさい、と書くしかないだろう。孫の顔を見せてあげることはできません。 人並み以上に苦労もするかもしれません。 私は、もう決めていた。これから進むべき道を。 嶋崎さんは、こう言った。 ――相田が稼いだ金は、私が預かっています。彼は、渡せばあるだけ使ってしまいます。ただ、その金額は、決して余裕のある数字ではありません。 そう言って私に、相田さん名義の通帳を見せてくれた。確かに悠々自適が望める金額ではなかった。     
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