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いつ目を覚ましたのだろうか。相田さんは頬を台につけたまま、
「レイ……」
とろけそうな声で言った。
私は、もう片方の手とで、相田さんの手を包み込んだ。冷たい。
彼は、ゆっくりと身体を起こした。
「造ってみた」
彼は、私のスケッチブックの上に伏せていたのだ。
「この狐、表情がいいね。憎たらしくて」
「それ、相田さんですよ」
多分。描いた後でそう思ったのだ。
彼は、絵の狐と、私の顔を交互に見た。僕?
可笑しくなった。
「それと、これ。見て」
彼は作業台の横のキャビネットを示した。上に布のかかっている固まりがあった。
私は、近付いて、布を取った。新しい作品のようだった。
「あ……これ……」
赤い襦袢の女。仰向きに背を反らせて、手足を何かに絡ませているようなポーズ。おそらくは抱き合っている。男と。なのに、少しも下世話な感じがしない。きれいで切ない。目をうっすらと開けて、口もとは何かを発している。これは……、
「私……ですね」
「あいださん……あいださん……、って」
名を呼んだ。そう。あの時。
「嬉しい」
気持ちが通じたみたいで。こんな風に彼の目に映っていたのだとしたら、嬉しい。
私の大好きな茶色い目が、熱っぽく私を見た。
「ああ、レイだ……」
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