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裸電球の下で、寝台の上に二人横たわって、天井を眺めた。相田さんがぽつりと言った。 「僕は、ただ、朽ちていくだけの存在だ。何も残せない」 私は、寄り添って彼の肩に額を付けた。 「作品を残せるでしょう?」 そうだね、と、それでも彼の声は寂しげだった。 「僕は女を悦ばせるためのただの道具だった」 道具。相手を悦ばせるだけの。 「それなら、私だって同じです。人形だったんです」 関節の曲がる、音声付セックスドール。 「でも、今は違う。私にとって相田さんは道具なんかじゃない」 彼は、顔をゆっくりこちらに倒した。掠れた声で、私の名を呼んだ。 「君は、リョウサイケンボになれる」 「なりたくありません。放り出さないで。私、心が本当に潰れて、きっと死んでしまう」 彼は、私の首を、そっと擦った。 「怖かった? 苦しかった? ごめん」 私は横に顔を振る。全然。 「僕は、怖かった。君を失うのが。憎かった。また捨てられる、そう思った。そんな自分も怖かった」 この人は、親に見捨てられた子供のままだ。 「私はここにいます。どこにも行きません。二人でゆっくり朽ちていきましょう」 長い年月、風雨に晒されて、欠け落ちていく野仏。 「レイ、君の絵、使っていい?」 「私の絵?」 「もちろん、そのままじゃ使えないけど、手を加えて作品にしたい」 「かまいませんけど……」 「あの……、ハービーが……」 声が途切れて静かになった。かすかな鼻呼吸が聞こえる。 私は、そっとそばを離れて、床に落ちた毛布と布団を彼にかけた。 ストーブを消して、電気を消して、布団の中にもぐりこんだ。 「節約、節約」 くっついて眠れば暖かい。これからはずっとこうして眠れるのだ。
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