【番外編】LIFT

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突然ガクンと、足場が揺れる。いや、この鉄の箱全体が。 きゃっ、と悲鳴を上げて、女は、よろけて膝を着く。 「大丈夫ですか」 「え、ええ」 手を差し伸べて、立たせる。照明が落ちる。 訪れる沈黙。静寂。 どうやらこのエレベーターは運行を止めたようだ。 ぼんやりと映る非常灯に照らされた女の顔は不安げで、俺は、おや、と胸の内で呟く。初めてそんな顔を見た。女は非常用の連絡ボタンを押す。応答はない。 「地震かなにかでしょうか。大丈夫かな」 意外に怖がりなのか。可愛げもあるようだ。 「大丈夫、高層ビルの耐震設計は進んでいます」 「でも……、動きませんよ? 灯りもつかないし」 「そのうち動きます。もし最悪の事態でも一両日中に救出されますよ」 「空気が無くなったりはしませんか」 「閉じ込められて窒息死なんて話は聞いたことがない。心配要りませんよ」 安心させるように、俺は優しげな声で言い聞かせる。 二人とも、黙ったまま立ち尽くし、変化を待つ。 沈黙が苦痛になるころ、女が、溜め息をついて笑う。 「ずっと前に観た映画を思い出しました。カラクリみたいになってる箱みたいな部屋に、数人の見知らぬ者同士が閉じ込められる話」 それは、観ていない。     
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