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「高層ビル火災のパニック映画は、昔ありましたね。脱出系の映画はよくやっていました。逆さまに沈んだ客船の、船底からの脱出とかね」
「そういう映画って、決まって身の上話や過去の告白のシーンが入りますよね」
「告白……、ですか」
言ってやろうか。
俺は、ずっとあいつが嫌いだった。
持たざるものの敗北感を、俺は十年以上味わってきた。
物を創り出す才能だけじゃない。喜びや哀しみを身体中で受けとめる感性。そして魂の自由さ。凡人がどんなに努力しても、決して手に入れられないものを、あいつは持っている。
あいつが眩しくて、羨ましくて、……憎かった。
あの男から、一番大切なものを奪ってやりたい。あいつはどんな顔をするだろう。
あいつの別れた妻が、俺のもとに逃げてきた時……、もっとも、助け以外のものを彼女は求めなかったが。あいつは、短くない間、床に伏した。再起不能かと思われるほど、奴の嘆きは深かった。
この女が、あいつから一度離れた時のあの顔も、見ものだった。死人のように血の気が失せて、食さえも放棄した。
その度に、俺は面倒を見た。ささやかな満足に浸りながら。
お前は俺がいないと駄目なのだという優越感に酔いながら。
だが、結局、俺の手に余るあいつを救い出したのは、この女自身だった。
俺は、静かに言葉を発する。狭い空間の中でそれは響く。
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