26人が本棚に入れています
本棚に追加
「告白、というのとは違いますが……、聞いてみたいな。貴女は、何が欲しいですか?」
「欲しいもの……、ですか。思いつきません」
「贅沢な暮らしはしたくありませんか。せめて、明日の不安のない余裕のある生活を」
「不安なんて、ありませんよ。私」
女は、穏やかに微笑む。俺は目をすがめる。
「そう、そういう人だな。貴女は。私が何を与えようとしても、見向きもしない」
「どうか……、しましたか」
俺は、女の身体を抱きすくめる。女は腕の中で身を縮める。細い肩だ、と思う。
「私の欲しいものを教えてあげましょうか」
そう言うと、女の髪を結いとめている髪留めを外して投げる。髪はさらさらと流れ落ちて、俺の手の甲をくすぐる。もう片方の手で、女の上着の第一ボタンを外す。
頭をつかんで、唇を押し当てる。背けようとする顔を押さえつける。
口うつしの戸惑いと驚愕を、充分に味わって、俺は顔を離す。
うろめく女の目を認め、腰から背中へ力が立ち昇る。
「貴女です」
女の声が震える。
「そんなわけ……、ありません」
「どうしてそう思うんです」
「あの人が悲しむことを、貴方がするわけ……」
「あいつの打ちのめされた顔……。もう一度見たいですね、ぜひ」
女は、唇をきつく引き結んで、俺を弾くように見る。
「そんな顔、私がさせません」
最初のコメントを投稿しよう!