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嶋崎さん?
名前を呼ばれて、ハッとした。
「着きましたよ?」
彼女は、「開」のボタンを押し続けていた。俺は表示を見上げた。
三十九階。目的階。
目の前の彼女の、きっちりと形作られた髪は、一筋も乱れてはいない。
そう、あれは……。
急速に上昇する密室の、浮遊感が見せた、ひとときの幻想。
俺は、深く息を吐いた。
エレベーターを降り、目的の場所に向かった。受付嬢が内線で取次ぎをし、
「応接室でお待ちいただく様にとの事ですので、ご案内いたします」
先に立って、別の部屋に案内してくれた。
制服の女子社員が、コーヒーをトレイに乗せて来て、丁寧に頭を下げた。
「申し訳ございません。会議が長引いているとのことで……、もう十五分程お待ちいただけませんでしょうか」
了解した。
制服の女が出て行って、彼女は、チラリと俺を覗き込んだ。
「窓から景色、見てもいいでしょうか? お行儀悪いですか?」
「かまわないでしょう。先方が遅れているのだし」
彼女は、照れくさそうに会釈して席を立ち、窓のそばへと軽い足取りで歩いていった。
わぁ、と声を上げる。
「高いですねぇ」
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