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はしゃぐ姿は子供のようだ。それはそうだろう。落ち着いて見えるので忘れがちだが、彼女はまだ歳若い。
俺は、座ったまま、彼女の後ろ姿を眺めて問う。
「礼子さん。もし、あいつの……、相田の造る物が、誰にも認められなくなったら……、どうします」
本音でなくともいい。冗談でもいい。あいつを見捨てると言え。
彼女は、一度きょとんと俺を見て、ふ、と視線を落とした。首をわずかに傾げる。
「あの人は……、認められたいとか、売れたいとか、あまり考えていませんよ。多分それでも造り続けるでしょう」
あの人、という声に、甘い響きを感じた。
俺は、そっと拳をにぎりしめた。汗ばんでいる。
そうなのだ。どんな絶望に突き落とされた時でも、いつの間にかあいつは、造り始めていた。眠りもせず、物も食わず。そして、出来上がったものは、いつでも俺の魂を、全身を揺さぶる。
だから、疎ましく思いながらも手放せない。あいつの造るものには魔力がある。
いや、あいつ自身に人を魅了する力があるのだ。
この女は、あの男が無自覚に放つ、甘い毒のような気に、絡め取られている。
「奴のことじゃない。貴女はどうするかと聞いているんだ」
わずかに口調が尖ってしまったのが、自分でわかる。
彼女は気付いていないようだ。
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