【番外編】LIFT

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「どうって……、あの人が創作に没頭できる環境を整えるだけです。私、相田(あいだ)佑介(ゆうすけ)の作品のファンですから」 なんのためらいも無くそう言って、微笑んだ。 「あ、でもそうしたら私、頑張ってもっと稼がなくちゃいけませんね」 揺るがない。彼女は、あの男の従順な恋人であり、見守る母親でもあるのだ。 この女は、俺の手には堕ちない。 席を立つ。ゆっくりと後ろ姿の彼女に歩み寄る。 足首が美しい、と思う。 「完敗だな」 「え? 何ですか?」 「いえ、何でもありません」 窓のそばで、彼女と並んだ。 「確かにいい景色だ」 くっきりと、霊峰富士が見える。飛べれば二十分くらいで着いてしまいそうだ。 彼女が、あ、と声を発した。 「こんな高い階でも、緊急用の開閉窓があるんですね」 「火災の時のためですね。そうそう、9・11以来、高層ビル災害には、脱出用パラシュートシステムが主流なんです」 「パラシュートですか? 飛び降りるんですか? ……ちょっと怖いですね」 無邪気な口調だ。 身を乗り出して窓の外を見る。 眼下に広がる地面を見下ろした。人が蟻のようだ。 たしかに、ここから落ちれば、ひとたまりもない。 俺は、並んで立つ彼女の背を、盗み見た。 もしも……と思う。    もしも、この女が、この世からいなくなったなら。    あいつはどんな顔をするだろう。    そして     
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