愛しさと、狂おしさと

１

部屋に戻ってみると、さっきと少しも変らない姿勢で彼は何本目かのタバコを吸い続けていた。表情は暗い。

ゆきずりの女と寝た感想はどうですか？　娘と同じ年齢の女と寝た感想はどうですか？　

そう、聞いてみたい気はしたが、やめておいた。追い討ちをかけても仕方ない。あんな顔をさせてしまうのだったら、声をかけなければ良かった。

私はさっさと身支度を済ませ、

「帰ります。ありがとうございました」

きちんと頭を下げた。顔を上げると、彼はとても不思議そうな顔をして、私を見た。

それじゃぁ、と背中を向けると、彼は私を呼び止めて、三万円握らせた。私がシャワーを浴びている間に用意して、また同じ姿勢でタバコを吸っていたのかと思うと、なんだか可哀想に思えてきた。要りませんと返そうとしたら、彼は、頼むから返さないでくれと自分の裸足のつま先を見た。

後ろめたいのだろうか。誰に対して？　妻か？　娘か？　自分自身か？　私に対してではないだろう。

別れ際に、携帯番号やメールアドレスを聞いてくる人もいる。ただ彼はそうではなかった。たとえ聞かれても、教えないけれど。

日付の変らない内に、私はホテルを出る。いつもそうする。朝まで一緒にいようよと誘う人もいるけれど、それは嫌。何を話していいのかわからないし、気まずい。