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二章.父と子
少女はその家に次女として生まれた。
けれど正確には三人目の子供だった。
その母は生まれつき体が弱く、一人目は流産、二人目は生まれてすぐに死んで、やっと普通に産まれたのがその少女だった。
けれどその母は三度目の妊娠が出来た事自体が不思議なほど身体は弱っていた。
それでも身体に宿したその命を今度こそは奪われてなるものかと、自らの命を削りながらもその体内の子を大切に守り育てた。
その母も父も医者から出産に耐えられる体力はないと言われており、実質それは死の宣告と同じだった。
母はそれでも子を産むといい、父は深く悩み悲しみながらもその決断を受け入れる事にした。
そして母が産気づき、新たな命が産まれる時は近付いて来た。
それと同時に父が母と別れる瞬間も近付いて来た。
目に見えて分かるほど母の顔色は悪く、呼吸も次第に弱くなっていく。
産まれる子供にその命を全て託して去るかのように、彼女は自らの力全てを出し切った。
父はこの世に生を受けたばかりの暖かい赤ん坊を腕に抱くと共に、冷たくなった愛しい人の横でただただ涙を流した。
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