二章.父と子

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少女にとって父はこの世の全てであり絶対だった。 友達に褒められるのは嬉しくもあったが父を取られたような気にもなっていた。 母は自分を産んで死んでしまったらしいが、まだ死というものを具体的に理解しておらずどこか人事のようだった。 他にも兄弟がいたと言われても実感はわかないし、父がその事に心を割くのは気に入らなかった。 ある時、家に帰ると父が自分を産んだらしい母親の写真を見て涙を流していた。 少女は自分の前で涙を流さない父が、そんな知らない人の事で感情を動かされている事にひどく動揺した。 自分に見せない姿を見せているのがとても特別に思えて苛立った。 父は少女が後ろに来た事に気付き慌てて涙を拭ったが、その間に少女は父の手からその写真を奪い取った。 そして父の目の前でその写真を細かく破り捨てたのだ。 この時初めて少女は父に怒られた。 大きな声で、聞いたこともないような恐ろしい言葉で叱りつけられるのは少女が父に否定されたと思うには十分な事だった。 学校で怒られる事はあったが少女にとって父以外の人間は二の次だったため何とも思っていなかったのだ。 生まれてからすぐに溢れるほどの愛情で囲われ、父が自分を拒んだ事は一度もなかったのに。 否定された、嫌われた、どうすれば。 少女はパニックに陥り、どうしたら良いのか分からないまま家を飛び出した。
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