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少女は身にまとう豪奢なドレスが汚れるのも構わず、背の高い木の頂上まで登り、遠く見渡せる景色を眺めて微笑んだ。
視界に映るのは透きとおるほどに澄んだ、蒼穹の空。透明な水に溶けた白い絵の具に似た、煙のような薄い雲が、ゆっくりと東方より流れる穏やかな風に乗り、青空の下の街を通り過ぎて行く。若葉を巻き込み吹き上げた風が、優しく少女の淡い桃色の髪を攫う。少女は驚いて自身の長い髪を片手で抑えた。
それでも、少女は見渡せる景色から目を離さずに一時でも長く見ていようと、陽に透ける長い睫毛に縁取られた緑柱石色の瞳を凝らし、蕾のような唇に笑みを浮かべる。
と、その時。西の空より二羽の小鳥が悠然と空を舞い、少女の目の前を飛んだ。まるで彼女を誘うかのように歌い踊りながら、風と戯れる。少女は一瞬驚いたような表情をしてから、またもとの笑みを零した。幼さの残るものの、どこか眩しく惹きつけられる微笑みを浮かべ、透きとおるような声を響かせて、少女は言う。
「いいわ。一緒に遊びましょう?」
少女は体を支えていた手を、太い木より離す。落ちる事など恐れていないのか、危なげに細い枝の上に立ち上がった。
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