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木々の葉に隠れていた少女の全貌が現れる。まだ、十を少し過ぎたくらいの少女だった。腰まで届く、少しばかり癖のある薄桃色の髪は絹糸のように滑らかで柔らかく風に流れ、白いレースがふんだんに織り込まれた豪奢なドレスは、彼女の身分が決して低くない事を表していた。
ほんのりと白い頬を赤く染め、少女は舞い落ちるように木から一歩足を踏み出した。
何も無い空中に踏み出した少女は、落下するはずだったにも関わらず、それでも悲鳴も上げずに宙で笑っていた。小鳥たちは少女の回りを飛び、彼女を空へと誘う。そして少女も、それが当然であるかのように空を飛んだのだ。
翼も無い少女は、重力の理を無視して緩やかな風に乗り、小鳥と共に背の高い木の周りで、蝶のように軽やかに舞う。
まるで人々の歌う天の楽園を描いた、神の使いが踊る幻想的な光景に似ていた。
無邪気な少女は小鳥と共に、高いソプラノの声で乳母が聞かせてくれた子守歌を歌う。
風が吹き抜け、少女の歌を遠い場所へと運んで行く。少女は楽しそうに笑った。
途中で、小鳥が地上の方へ行こうと、少女を誘う。すると少女は微笑を消し、首を横に振ってそれには答えなかった。
「駄目。私がこの力を使うのは、誰も見ていない空だけなの」
でないと皆が怖がってしまうから……。
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