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少しばかり寂しそうに、少女は再び木に舞い戻る。ふんわりと広がるドレスの裾を上げて、木の枝に足をつけると、少女は身にまとう気の流れを変えた。途端に体に重力が戻り、足に重みがかかる。危うくバランスを崩し、今度こそ地上へと落ちそうになった所で、少女は再び「念じた」。
薄っすらと、少女の体が羊膜のような淡水の光に包まれる。すると、少女の体は再び重力を放棄し、落ちかけた体を空へと戻す。今度こそ、と少女は少し太い木の枝に舞い降りて、木にしがみつくように強く掴んだ。そこで少女は「終われ」と念じる。体に再び重力が戻り、今度は落ちる事無く少女はほっと息を吐いた。
その様子を見守っていた小鳥たちが、無事着地した少女の肩へととまった。
そして春を告げるその可愛らしい声で、少女に甘えるように鳴く。
「ええ、大丈夫。でも、そろそろ行かないと。姉上が心配するの」
少女は残念そうに肩をすくめ、「もう行かなくては」と言い、小鳥を空へと放して木を下り始めた。
木登りでは登りよりも下りの方が、神経を使うものだ。少女は慎重に、一歩一歩枝に足をかけて降りて行く。
半分ほど降りた所で、下から彼女を呼ぶ声が聞こえてきた。
「シェリルー。……どこへ行ったのかしら、あの子」
声の主は木の根本付近で心配そうに辺りを見回した。
その声は少女の良く知る声だった。今から会いに行こうと思っていた人であり、彼女がもっとも敬愛する人。
「あ、姉上!」
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