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シェリルと呼ばれた少女は姉を呼び返し、嬉々として木を下りる。
だが、急ぐ心がシェリルの慎重さを打ち消し、彼女は誤って枝から足を踏み外してしまった。
「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!」
ドレスを纏う淑女にはいささかあり得ない叫びを上げて、シェリルは木の中腹から派手に落ちた。
先ほどのように、「力」を使うわけにはいかない。あれは誰にも見られてはいけないものなのだ。
たとえそれが、二つ歳の離れた愛する実の姉だとしても。
シェリルは痛みを予期して、きつく瞳を閉じた。
木のふもとでは、シェリルの叫び声を聞いた姉が、落ちてくる妹の姿を見とめ、声にならない叫びを上げた。
どさりと人の重みを感じさせる音がして、シェリルの息は一瞬止まる。
しかし、不思議と痛くは無かった。恐る恐る瞳を見開くと、そこにはシェリルを抱きとめた少年が、心配そうに彼女を覗き込んでいた。
「セイ様?」
勢いづいて落ちてきたシェリルを受けとめたらしい少年は、地面に座り込む形でシェリルを抱きかかえていた。そのすぐ隣では、心配そうにシェリルを見つめる姉の姿。彼女は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「ああ、シェリル。怪我は無い? 木登りは危ないから、背の低い木だけにしなさいといったでしょう」
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