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2、クロ、アカ、そばめし
ホイットニーの施術を受けてからというもの、坂下夫妻の生活はみるみるうちに忙しくなった。
もともと手先が器用で、30年もの間自動車整備工としての経験を持つ秀昭。金属の加工や器具の設計、組み立てなどは朝飯前である。
だが、秀昭には課題があった。パソコンに不慣れだったのである。秀昭は商品とする器具の試作品をいくつか作りながらパソコン教室に通い、ホームページ作成の技術を磨いていった。そうしているうちに3ヶ月はあっという間に過ぎてしまう。
真紀は特段修行が必要な項目はなかったのだが、それでも条件に合う貸店舗を探すのは容易では無かった。2人の間には子どもがいない。それだからまだいいものの、この年で2人で自営業を始めるのは結構な冒険である。だから真紀も慎重にならざるを得ない。
また、真紀は公的資格を取るための講習会にも度々参加した。本来なら取得まで最低でも半年はかかるものなのだが、ホイットニーの施術の甲斐あって3ヶ月で取得ができた。
そして坂下夫妻は、修行開始から間もなくしてミニチュアダックスフントを3匹飼い始めた。この3匹は、とある事情から引き取り手が探されていた3匹。色は黒、赤に近い茶色、そしてチョコレートのような焦げ茶色である。
名前は前の飼い主がつけたものを踏襲してクロ、アカ、そばめしと呼ぶことにした。
なお、クロは6歳のオス、アカは8歳のオス、そしてそばめしは7歳のメスである。
犬を久しぶりに飼うことに対し、秀昭には当初かなりの不安と迷いがあった。特にそばめしにはなかなか慣れることができず、最初の2週間ほどは散歩、えさやり、トイレの世話、シャンプーなど、ほとんどの世話を真紀が行っていた。
だが秀昭は真紀と共にその不安と迷いを乗り越え、無事修行期間の3ヶ月を終えた。
「どうだ!いいだろう?」
出来上がった3つの試作品を目の前にして、秀昭が真紀に笑顔で言う。真紀も満足げな顔だ。
「いよいよ明日から、新しいステージが始まるな」
秀昭は期待と不安をにじませた顔で真紀を見つめた。
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