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「それが……私はどれをやればいいのか……」
坂下はホイットニーの問いかけに思い悩んだ様子で言う。
「なんじゃ……いや、何ですか?ご希望のお仕事が無いのですかな?」
ホイットニーは坂下に尋ねると、坂下は頷いた。
暗くなり行く夕焼け空の明かりが窓から差し込んでくる中で、しばしの沈黙が流れる。沈黙の中セーファスがお茶を出すと、
「女房から、最後の10年くらい好きなことをやりなさいって言われたんですよ」
と、坂下は重い口を開く。
坂下が勤めている郷田オートは家族経営の小規模な自動車整備工場。坂下は30年以上に渡りこの工場で勤め上げた大ベテランだった。
ところが、近年のハイブリッドカーの普及のあおりを受けて修理の依頼数が格段に減少。経営が難しくなり今年一杯での廃業が決まってしまったのだ。
自動車整備工場の求人がそう簡単にあるかと言えばそんなことは無い。かと言って坂下には自動車整備工以外の職務経験があるわけでは無い。しかも坂下は49歳。再就職には極めて難しい年齢だ。
坂下はこの件を結婚25年目の妻に相談したところ、好きな仕事をしろ、と言われたのだ。
「でもそんなことを急に言われても、というのが私の思うところでして……仕事人間だったものですから」
坂下は困った表情で言葉を漏らす。
「だとすると、おぬ……いや、坂下様がどんな職業をお望みなのか、まずはそこから見定めねばなりませんな。セーファス様!杖を持ってきてくだされ!」
「ぷぷっ……はい。かしこまりました」
ホイットニーが必要のない敬語を使ったことに対し笑いをこらえつつ、セーファスはホイットニーのもとに杖を運んできた。
「くわぁぁぁーーーーーっ!」
ホイットニーが杖を握って強く念じると、杖の上に映像のようなものが浮かんできた。
「……これは?」
「これは、坂下様の心の中を映したものです。きっとこの中に、坂下様の転職のカギが眠っておるはずですじゃ。ただ、断片的にしか見えないので詳しくお話を伺う必要はありますのじゃが……」
ホイットニーが不自然な敬語でそう言うと、2人はじっくりと映像を眺める。学生時代から今までの映像が断片的に流れ、15分くらいでその映像は消えていった。
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