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午後7時。夜空には星が光っている。神殿の外から立て看板持ってセーファスが戻ってきた。マーダの転職相談所はもう店じまいの時間である。
「もうそろそろ敬語に慣れてくださいね」
「……うむ」
困った表情をするセーファスに対して180歳の大長老、ホイットニーは生返事で答えた。
龍の星では40歳の見習い神官にすぎなかったセーファスだが、日本に飛ばされてからはすっかりホイットニーの教育係になってしまっている。
「ちゃんと聞いているんですか?」
セーファスの目がやや吊り上がった。
「お?……う、うむ」
セーファスの機嫌を伺い、再びホイットニーは神妙な面持ちで返事をした。龍の星では転職を司る伝説の神官も、これでは形無しである。
「……坂下さん、うまく行くと思います?」
憂いを帯びた表情でセーファスがホイットニーに問いかける。
「セーファスよ、人間には2種類の経験しかないのを知っておるか?」
「2種類の経験、ですか?」
「そうじゃ。成功の経験と、学びの経験じゃ。それ以外の経験をしたと思い込んでいる場合はの、何かパズルのピースが足りないだけなのじゃ。今回の転職はきっとそのピースになるわい」
ホイットニーは自信を持って言った。
セーファスはホイットニーの慧眼と分析力の高さを誰よりも理解している。セーファスは力強く頷いた。
「ところで、わしからもお主に聞きたいことがあるんじゃ」
「何ですか?」
セーファスが言うと、ホイットニーはばつが悪そうな顔をして口を開いた。
「……クレジットカードって、何じゃ?美味いのか?」
セーファスはその言葉を聞いて深い深いため息をついた。
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