1、後悔なき転職

6/7
前へ
/19ページ
次へ
午後7時。夜空には星が光っている。神殿の外から立て看板持ってセーファスが戻ってきた。マーダの転職相談所はもう店じまいの時間である。 「もうそろそろ敬語に慣れてくださいね」 「……うむ」 困った表情をするセーファスに対して180歳の大長老、ホイットニーは生返事で答えた。 龍の星では40歳の見習い神官にすぎなかったセーファスだが、日本に飛ばされてからはすっかりホイットニーの教育係になってしまっている。 「ちゃんと聞いているんですか?」 セーファスの目がやや吊り上がった。 「お?……う、うむ」 セーファスの機嫌を伺い、再びホイットニーは神妙な面持ちで返事をした。龍の星では転職を司る伝説の神官も、これでは形無しである。 「……坂下さん、うまく行くと思います?」 憂いを帯びた表情でセーファスがホイットニーに問いかける。 「セーファスよ、人間には2種類の経験しかないのを知っておるか?」 「2種類の経験、ですか?」 「そうじゃ。成功の経験と、学びの経験じゃ。それ以外の経験をしたと思い込んでいる場合はの、何かパズルのピースが足りないだけなのじゃ。今回の転職はきっとそのピースになるわい」 ホイットニーは自信を持って言った。 セーファスはホイットニーの慧眼と分析力の高さを誰よりも理解している。セーファスは力強く頷いた。 「ところで、わしからもお主に聞きたいことがあるんじゃ」 「何ですか?」 セーファスが言うと、ホイットニーはばつが悪そうな顔をして口を開いた。 「……クレジットカードって、何じゃ?美味いのか?」 セーファスはその言葉を聞いて深い深いため息をついた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加