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次の日もその次の日も私たち二人の前にあのティディベアは現れた。
いつも何か書いてあるメモを持っていて、そのクマはこちらを笑顔で見ているのだ。
最初は危険だと思っていた私であったが、日にちが経つにつれてその気持ちも薄れていった。
何故なら最初は幽霊が何かを企んでいるに違いないと思っていたが、一向に冬美を向こうの世界に連れて行こうとする気配が無い。
もしかしたら私の思い違いで、優しい幽霊なのかもしれない。
あと一週間で冬美の夏休みが終わる。
そしたらここに来る必要はなくなるということだ。
学校が始まれば、勉強や友達と遊ぶ時間が増えて、桜屋敷のことはゆっくりと忘れていくことだろうと私は思っていた。
いつの間にかこの屋敷では、私と冬美ともう一人の仲間が増えていた。
今日も冬美はティディベアを大事そうに腕に抱きながら、花を写真に収めている。
鼻歌までうたっていて、かなりご機嫌な様子だ。
「まりちゃん。最後の日に何かサプライズしようよ。」
「サプライズ?」
それは冬美の急な提案であった。このクマにお礼がしたいと言うのだ。
「何が喜ぶかなぁ。」
「それなら、冬美が得意の手紙は?心の籠った手紙を送ったら喜んでくれるんじゃないかな。」
そう言うと冬美の顔がパッと輝いた。
「それとっても素敵!ありがとう、まりちゃん。」
「いえいえ。」
冬美が手紙を書いて、私がケーキを作ることになった。
お菓子作りが趣味の私には打って付けだと思った。
それから毎日、いつものようにティディベアと一緒に花を観察したり、一緒にお菓子を食べたりしていたが、サプライズのことは二人だけの秘密だった。
たまにうっかり冬美が喋りそうになるのを止めたりするのが本当に楽しくて。
あっという間に時間は過ぎていった。
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