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大学生になって初めての夏休みが始まった。
私は小学生の妹である冬美に連れられて、桜屋敷に行くのが毎朝の恒例となっていた。
桜屋敷とは、私の家から自転車で十分ぐらいの場所にある今は誰も住んでいない屋敷である。
私が幼い頃からこの屋敷はあって、壁にツルの絡まったレンガ造りの姿は今も全く変わってない。
昔からこの屋敷にはいくつか悪い噂があったため、近寄るのは禁止されていた。
しかし、屋敷の庭には、春になれば「桜屋敷」の名の由来である見事な桜が満開に咲き、夏にはアジサイの花やクチナシの花など様々な種類の花たちが綺麗に咲き誇るのだ。
そんな私がこの屋敷に行くことになった理由は今から少し前に遡ることになる。
私より十歳年下である妹の冬美。どうやら今年から夏休みの宿題で自由研究があるらしく、私に何をしたらいいか尋ねてきた。
私は冬美のために一日掛けて考えた。
色白で、動物が大好きな女の子らしい冬美には、やはりそれらしいものがお似合いだと思い、私は花の研究はどうかと提案してみた。
すると冬美は嬉しそうに微笑んですぐに準備に取り掛かったのだ。
「まりちゃん。」
まりちゃんとは冬美が私を呼ぶときのあだ名である。麻利(まり)衣(え)だからまりちゃん。
「まりちゃんは何の花が好き?」
「桜かな・・・。」
「桜って綺麗だよね。桜屋敷の桜も毎年綺麗だもんね。」
「桜屋敷か・・・。冬美も知ってたの?」
「うん。前にね、お友達と桜を見に行ったんだよ。あ、お母さんには内緒にしてほしいかも・・・。」
「もちろん。」
最近の小学生は凄いなと思った。私の時代は誰もあそこに立ち寄ろうとする子なんか居なかったのに。
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