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桜屋敷の悪い噂には二つあった。
一つは一家心中である。
ある日、父、母、息子の裕福な家族が、父親の会社の倒産によって暮らしていけなくなったため起きた心中だというもの。
もう一つは孤独死であった。
早くに旦那と息子の二人を亡くして、一人暮らしをしていた婦人が数か月の間誰にも見つかることなく死んでいったというものだ。
どちらもあくまで噂である。
この町に住む人は、誰一人あそこに住んでいた人物を知らないのだから。
冬美が何度か出入りしたことがあるという桜屋敷。
そこなら珍しい花の観察ができるかもしれないと冬美が言った。
私はあまり乗り気ではなかったが、可愛い妹のためにと毎朝付いて行く決心をした。
もちろん誰にも言うことはなかった。
母親にはモーニングに行くと言っていたので怪しまれることはなかった。
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