0人が本棚に入れています
本棚に追加
今日は雨。
風も少しあるようだ。
しかし、私たちにはどんな天気だろうと関係ない。
一か月の記録が終わるまでは毎日あの場所へ行かなければならない。使命のようなものである。
冬美はレインコートを着て、私は大きめの傘を差して足早に桜屋敷へと向かった。
雨で空が暗いためか桜屋敷はいつもより不気味に見えた。
そういえば、ここに来始めてからずっと晴れが続いていたため今日は何週間ぶりの雨だ。いつもとは違う桜屋敷の姿に冬美も心なしか顔がこわばっているように見えた。
それでも私の手を引き、どんどん庭の方へと歩いて行く。
花が見えてくると、冬美はこちらを振り向いた。満面の笑みだった。
「久しぶりの雨で花が喜んでるみたい。ほら、嬉しそうだよ。」
私にはそれがわからなかったが、花が水を浴びていつもより潤って綺麗に見えることはわかった。
観察している花の写真を一通り撮り終え、私が安心していると、突然、冬美はわっと大きな声を出した。
キラキラした目をこちらに向けてやってきた。
どうしたのかと尋ねると、冬美は一枚のメモ用紙を私に渡してきた。そこには、
「わざわざお手紙ありがとう。お花気に入ってくれたんですね。どうぞ、あなたに差し上げますよ。それより、僕の家に寄って行きませんか。美味しいお菓子を用意していますよ。」
と書かれている。私は思わずそのメモを地面に落としてしまった。
昨日の冬美が置いた手紙への返信なのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!