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なかなか見つからず、私が入り口の方へ戻っていると、
「まりちゃん!」
と入り口とは反対の奥の方から私を呼ぶ声がした。
私は急いで声のする方へ向かうと、薄暗がりの中で冬美が手を振る姿が見えてきた。
どうやらここはリビングのようだ。
大きな窓がいくつも並んでいて、庭が一望できる素敵な場所だった。
「もう、捜したのよ。」
「ねえ、見て。」
私の心配も余所に、冬美は広い部屋にポツンと置かれた小さなテーブルを指差した。
木の椅子も一つだけ置かれている。
テーブルに歩み寄ると、そこには真っ白なティディベアとクッキーが置かれていた。
クッキーはよくスーパーで見かけるポピュラーなものだった。
「妖精じゃなくてこのクマさんだったんだね。」
「まさか。誰かのいたずらだよ。帰ろう。」
冬美の腕を掴んで帰ろうとすると、
「クッキー食べて行こうよ。ね?」
「怪しすぎるって。」
冬美は私の言うことなど聞かず、クッキーの封を開けていた。
「賞味期限も来年みたいだよ。いただきまーす。」
何も言い返せず、私は渡されたクッキーを仕方なく口にした。普通に美味しかった。
「クッキー美味しかったね。ごちそうさまでした。クマさんありがとう。残ったのはクマさんが食べてね。」
冬美はそう言ってティディベアの頭を何度も撫でて微笑んだ。
私とは似ていない真っ白で細い指。
そんな冬美の手が私は好きで、冬美がまだ小さい時に私はよく手を握りながら一緒に寝たものだった。
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