27人が本棚に入れています
本棚に追加
美しく、繊細に流れてきたその曲は、未波にも馴染みのあるもの。
あの有名な「別れの曲」。
それを耳にしながら、ゆっくりとラウンジへと向かった未波は、
もう入り口に立った時には涙が堪え切れずに溢れていた。
自分の口から滑り出た愚かな言葉と、傷ついた辻上の顔が脳裏に蘇った。
そして、それからの彼の気持ちがこの旋律に映されているようで、
切なくて、辛くて、苦しくなる。
未波は、入り口に立ったまま顔を両手で覆い、
漏れてきそうな嗚咽を必死に押し殺して泣いた。
だが、彼女には気付かないのか、ピアノの旋律は流れ続ける。
その音色が、やがて静かに終わると、
一瞬の間を空けて、愛しい人の声が驚いたように呟いた。
「未波……」
最初のコメントを投稿しよう!