4人が本棚に入れています
本棚に追加
「壊れかけの、じゃなくて、壊れたラジオ」
淳さんは工具箱をひっぱりだしてきて、ラジオの中を開く。
「ずいぶん乱暴に扱っていたんだね。ここら辺をちょこっといじってみるとするか」
まるで手術をするかのように、本体を開き、器用にドライバーを使っていた。棚から単四電池を持ってきて、電池を入れてみる。硬くなった電源スイッチを押してみた。隣にあるチューニングのつまみを指先で回してみる。周波数が表示された下にある、赤い矢印が右から左にゆっくりと動く。
「こういうの得意だし。ハッチャン、ちょっと涙目になってるよ」
スピーカーからは、こもった声だが、かすかに男性の声がする。
「……J・MAXFMでは、ラジオ番組レポーターを募集しております。詳しくは当社ホームページをご覧いただくか、J・MAXFM総務部までお電話ください。電話番号は……」
息を吹き返したラジオから、お礼でも述べるかのように語りかけてくれる。忘れかけていたチャレンジ精神の芽が出たような気がした。
「どうした?」
淳さんはわたしの顔を不安そうにうかがっていた。
「ラジオの仕事、もう一度やろうかな」
ラジオと単語を吐いたとき、淳さんが言葉に反応してニコリと笑った。
「ようやくハッチャンの口からその言葉が出たか。もう、その声を出すのをあきらめたとばかり思ってた」
「ありがとう。やってみるよ、もう一度」
淳さんは黙って笑って頷いてくれた。
最初のコメントを投稿しよう!