帰還後、現実を探索する

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 敷地内に入った瞬間、胃からノド付近までこみあげる、ジリジリと焼けるような酸に滅入ってしまった。  駅から北に二十分くらい進んだところに閑静な住宅街が広がっている。その中にコンクリートの打ちっぱなしの三階建てビルがあった。一階部分は事務所で、外階段から入る二階がアナウンススクールの講座が開かれる会場へ続く。  あじさい先生と勝手に呼んでいる、白川陶子先生は、白川アナウンススクールのスクール長をしている。地方のアナウンサーを勤務してから、結婚退職し、ご主人の関係でこの土地に引っ越してきた。子供の手が離れてから、もう一度アナウンスの仕事がしたかったそうだ。この土地でマネージメントしている会社はなく、司会業のマネージメント業を起業した。  白川先生はどうしてもひいきにしてしまう性格らしく、生徒によって教え方が違った。わたしはどちらかといえば、きつく指導されていた。きっと嫌われている部類に入っていたのだろう。誕生月が六月ということもあり、皮肉を込めて白川先生をあじさい先生と呼ぶことにした。厳しい指導のなかで必死にあじさい先生にくらいついてやろうという根性だけはこのスクールで唯一といっていいほど学ばせてもらった。
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