宇宙船から帰還後のこと

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 手ごたえのない面接試験はこれで何回目だろうか。きっと今回も茶色く薄っぺらい封筒に、採用は見送らせていただきますの簡単な文字が並ぶ冷たい印刷物が送られてくることだろう。  空は厚い灰色の雲が垂れこめている。風がやみ、湿った空気が肌にまとわりつく。右頬にしずくが一粒落ちた。左頬にももう一粒。  しずくをぬぐい去ると、雑居ビルからすぐの商店街アーケードの中に入った。店先では手押し車を携えたおばあちゃんと店主らしいおじいさんが、店の前にある木の長椅子に腰かけて話をしている。  六月もまだはじまったばかりだというのに、アーケードの上からは七夕のディスプレーが垂れ下がっていた。笹や黄色や赤などの色とりどりの短冊、てらてらした素材の星やボンボリの装飾が人通りの少ないアーケードを一層さびしくさせていた。  さびかけた梁にくくりつけられたスピーカーから流れる音楽に耳を澄ます。昔この新曲をあの場所で聴いたな。ラジオの神様と乗っていた、あの船の中で。 「白川がお送りしております。今日のいちおしソングをお送りしました。この曲にリクエストをくれたのは、ラジオネーム……」  女性の力強く、抑揚ある声がする。わたしは思わず耳を押さえた。梅雨の湿り気を帯びた風を受け、わたしは息を切らせながら、アーケードをかけ抜けた。
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