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夜七時を過ぎて、玄関のカギを開ける音がする。
「ただいま。あ、傘がまた生えてる」
「淳さん、おかえりなさい。ごめんね。ふられたの、いろいろと。また、コンビニで傘買っちゃった」
ダイニングにいたわたしはあわてて玄関先まで走る。玄関先には銀色の傘立てに淳さんが濡れた青い傘を差そうとしていた。すでに傘立てはビニール傘でぎゅうぎゅうにつまっていた。しかたなく、傘立ての隣に立てかけていた。
「ん? 傘忘れちゃ、しかたないよ。で、どうした。そんな浮かない顔して」
「面接した会社にもふられちゃった。片思いだったみたい」
「会社と相性があるんだから。まだまだこれから、これから」
淳さんは疲れた表情をうかべていても、声は高らかだった。その声を聞いて、なんだかほっとして泣きそうになった。
「なんか、だらしなくてごめんね」
「納得いく仕事に就くのが一番だし。それにハッチャンの料理おいしいから気にしないで」
紺色のネクタイをゆるめながら淳さんはキッチンへ向かい、お、今日はカレーだね、食べたかったんだ、と声を弾ませていた。
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