帰還後、現実を探索する

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「お待たせしました。営業の郡司と申します」  背が高く、肩や首周りががっしりした体型。色黒でホリが深く、きれいに整えられた眉毛は太く、黒々としていた。短髪な黒髪にちょっとだけワックスで軽く髪の毛をたたせている。姿勢を正し、ジャケットの内ポケットから名刺入れを取り出す。やや骨太な長い指先から、名刺を受け取る。 「事務職をご希望ということで、話を承りましたが。神宮寺初音さん、えっと、前職は……、ん?」  郡司さんはスキルカードをじっと目を凝らして見ている。しばらくして、私の顔をまじまじとみて、目を輝かせて前のめりに座り直していた。 「ラジオ番組のアシスタント。失礼ですがハッチャンって呼ばれていませんでしたか」 「ハッチャン、ですか。ええまあ」  懐かしいアダナに、思わず息をのむ。郡司さんは一気に表情が明るくなった。 「やっぱりこの声だ。実はこちらに移る前は東京で営業やっていまして。帰りに車でラジオ聴いていたんですよ。確か、浜渕信之のラジオでしたよね」 「番組リスナーさんだったんですか」 「仕事さぼってメッセージ送ったりしました」  郡司さんは照れながら、頭をかいていた。目の前にリスナーさんだった人に直接会ったことはなかったのでこちらも恥ずかしくなって、どこに目を向けていいかわからなくなる。 「あの、もうラジオやらないんですか。司会や声を使った仕事は希望にないんですか」 「新しいことにチャレンジしたいんですよ。二十六ですけど」  郡司さんは納得がいかなかったのか、スキルシートに目を落とし、息を吐く。顔をあげ、ゆっくりと口を開いた。
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