追憶のレプリカ

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「ウチと違ってお金持ちなんだから。もらえるものはもらってきなさいよ。いい?」  どこからともなく、ひんやりとした風が部屋の中をかけめぐる。それはすきま風だったのか、母と美羽の間をすうっと流れていった。  結衣ちゃんと行くこともあったけれど、たいていは美羽一人で御屋敷のおばさんのところへ遊びに行くようになった。 「素敵」 「これね、ドールハウスっていうの」  大きな居間の隅の机上に西洋風の建物が置いてある。中には豪華な家具やベッド、コーヒーカップが並んでいた。 「木のおうちみたい」 「そうね。似てるね。この建物は機械じゃなくて、全部手作りなのよ」 「そうなんだ。いいなあ。こういうおうち」 「つくってみたい?」 「うん」 「難しいから、簡単なものを教えてあげる」  御屋敷のおばさんは部屋の奥からノートの大きさくらいの空き箱をもってきた。 「この中に自分の住みたいおうちとか、街とかつくれちゃうんだよ」 「この中に?」  たとえばね、と御屋敷のおばさんは他にも小さな箱や折り紙を持ってきた。 「緑色の折り紙を敷いて、その上に黄色のお花も咲いて。赤い屋根をつければ簡単なおうちが完成」 「おばさん、すごい」 「いろんな場所が作れるし、自分の夢がかなうのよ」  御屋敷のおばさんの言葉に美羽は胸をうつ。絵だけではなく、立体的にかなえたい世界を自分の手でつくれることを教えてもらった。 「これ、欲しい」 「こんなものでいいの?」 「うん」 「いいよ。あげる」 「あと、この作り方、教えて」 「いいよ。いつでも教えてあげるから」  日に日に御屋敷のおばさんのおなかが風船のようにふくらんでいく。小さな世界にまた小さな世界が生まれた気がした。
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