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「……お母さん」
美羽は真っ暗な寝室で泣きながらつぶやく。
「ああ、もう、うるさい」
「だって、お母さん」
「泣くなら静かに泣きなよ」
そういって姉はやはり掛け布団を頭まですっぽりとかぶって寝てしまった。美羽はしかたなく声を出さずに泣いた。
次の日、小学校から帰ると、母は映りの悪いテレビの後ろを手でたたいているところだった。
「どうして、お姉ちゃんは美羽を叩くの?」
「あんたがしっかりしないからじゃないの」
テレビの裏をたたきながら母は口をとがらせた。
「男子に太ってるってからかわれたっていいながら叩いた」
「そう」
「この間はお父さんがいないからって言ってた」
「そう」
母は目の前の煙草を取り出し、ライターで火を何度もつけようとしたがうまくつけることができず、もう、と甲高い声を発して灰皿に新しい煙草を載せた。
「もういいから」
横すじの入った画面には男と女の物語という主婦層に人気のワイドショーの特集が流れていた。
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